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申告調整による減価償却資産の損金算入

 税務における減価償却費については、償却費として損金経理をした金額のうち、税法上の償却限度額に達するまでの金額を損金に算入することととされています。「償却費として損金経理をした金額」には,確定した決算において「減価償却費」科目を用いて費用計上した金額のほか、例えば圧縮限度超過額を超えて費用処理をした部分の金額や、修繕費に計上したが資本的支出に該当する部分の金額等も、そこに含まれることとされています( 法基通7-5-1 )。

 そこで、例えば「外注費」勘定で費用処理されていた金額のうち、減価償却資産として資産計上が必要な物品を税務調査などで指摘・修正となるときは、そのような費用処理をした事業年度では、その全額の損金算入が認められないこととされます。

 ただし、このような通達の定めの要件を満たさない場合であっても、あらかじめ法人税申告書の別表において申告調整をしている時には、その申告調整により損金算入した金額は、償却費として損金経理された金額に該当することとされています(法基通7-5-2)。このような場合には、上記に述べたような損金経理をした勘定科目の制約なくして損金算入が可能になってきます。

2024/10/6 税理士小林俊道事務所

飲食費実務と消費税経理通達1の2の新設

 一人あたり1万円以下の飲食費(社内飲食費をのぞきます)については、一定の事項を記載した書類の保存を条件に交際費等の支出額とはされず、法人の規模を問わず損金算入することができます。

 この一人あたり1万円以下との判定にあたって、飲食代金に含めて支払った消費税等の額を含めて判定をするのかについては、事業者が税込経理方式を採用している場合には消費税等の額を含めて判定し、税抜経理方式を採用している場合には消費税等の額を含めずに判定するのが原則です。

 この点、税抜経理方式を採用する事業者が、免税事業者などのインボイス発行事業者以外の者に飲食費を支払った場合には、原則として仮払消費税等の額がないものとされるため、仕入税額相当額の全額を飲食費に含めた上で、一人あたり1万円以下か否かの判定を行います(消費税経理通達12)。

 ただし、令和5年10月1日から3年間は仕入税額相当額の80%を控除できるとする経過措置が設けられているため、経過措置を適用する場合は「税抜価額+仕入税額相当額×20%」の計算式で求めた金額をもって、一人あたり1万円以下か否かで判定することになります。

 結果、令和5年10月1日から3年間において免税事業者等の飲食店で飲食費を支出した場合の1万円基準のボーダーは、一人あたり「税抜9,803円(税込10,784円)」となります。

 もっとも、税抜経理方式を採用する事業者が「簡易課税制度適用事業者である場合」もしくは「2割特例制度を適用して申告納税する事業者である場合」については、令和6年度税制改正とそれを受けて発遣された「「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて(略称、消費税経理通達)」等の一部改正について(法令解釈通達)」(国税庁令和5年12月27日公表)において、それらの適用事業年度における継続適用を条件として、インボイスの保存の有無にかかわらずすべての課税仕入れについて、課税仕入れに係る支払い対価の額に110分の10(軽減税率の対象となるものは108分の8)を乗じて算出した金額を仮払消費税等の額とする経理処理が認められることとされました(消費税経理通達1の2(新設)、簡易課税制度が適用される課税期間を含む事業年度の仮払消費税等の額の特例)。

 かかる改正の趣旨は、これら簡易課税制度適用事業者や2割特例適用事業者は、みなし仕入率に応じて仕入税額控除額を算出するのだから、そもそもインボイスの保存は不要とされる事業者です。そこで、税抜経理方式を採用している簡易課税制度適用事業者らが、経理処理のためだけに、仕入れ先がインボイス発行事業者であるか否かを区分するとの事務負担を強いることは、もはやその意味を見いだしにくいとされたことによるものでしょう。

 こうした通達の改正内容を実務に反映することとした簡易課税制度適用事業者や2割特例適用事業者においては、たとえ税抜経理方式を採用していたとしても、インボイスの交付を受けられなかった飲食費について特段の区別をすることなく、課税仕入れに係る支払い対価の額に110分の10を乗じて算出した金額を仮払消費税等としたうえで、支払対価から当該仮払消費税等の金額を除いた金額を飲食費の支出額としたところで、一人あたり1万円以下の飲食費との判定を行うことが可能となりました。

 実際の私の関与先実務を通じて、税抜経理方式を採用する簡易課税制度適用事業者は少数に思うところですが(簡易課税制度適用事業者は税込経理を採用するとの印象が強い)、該当するこうした事業者において、インボイスの保存の有無にとらわれずに経理処理を画一化でき、また一人あたり1万円以下の飲食費の判定が一律の基準で可能になることは実務メリットが大きいところで、ここで述べたような令和6年度税制改正における消費税経理通達の改正については、実務への導入も含めて今後の研究の意義が大きいと思われます。

参考;(通達の概要、第1 個別通達《消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて》関係)https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000265850

令和6年8月1日記述

事業承継税制の限界

 法人版事業承継税制の特例措置について、令和6年度税制改正において、特例承継計画の提出期限の2年間の延長措置が手当てされました。延長後は、令和8年3月末までに特例承継計画の提出を済ませた上で、株式の贈与または相続承継と先代社長から後継者社長への交代を令和9年12月末までに完了させることにより、同制度の適用を受けることが可能になります。この注意点としては、株式の承継と社長の交代の期限は延長にならなかったことと、株式の承継までに後継社長は3年間継続して取締役就任の事実が必要ということです。すなわち、後継者になる者は令和6年中に取締役に就任していなければなりません。2年間の延長にあぐらをかいていてはいけないということです。

 ただこの事業承継税制、後継者は事実上先代社長の親族(推定相続人)に絞られる制度のように思うところです。制度の表向きでは親族外承継でも同税制の適用は可能と謳っていますが、例えば先代社長の親族ではない従業員(親族外後継者)が後継社長になり同税制の適用を受けた場合で、株式の承継を先代社長からの贈与により受けた場合、先代社長に相続が発生したことで、それまでの贈与税の納税猶予が相続税の納税猶予に切り替わる訳ですが、その際、株式の受贈者である親族外承継者は、株式を承継しなかった先代経営者の相続人(妻や息子、娘ら)とともに、通常は相続税申告をする必要が出てきます。これら相続人は、他人である後継者に財産開示はしたくないという事情もあり、また株式に関する納税猶予を条件付きでも受けることができる親族外後継者と、株式以外の現預金や不動産等の相続財産について納税猶予の恩恵に授かれない相続人らとの立場や置かれた状況の違いも、両者の不協和音に発展しかねません。このようして、相続人と親族外後継者が一つのテーブルに座って相続税申告に向けた打合せが果たしてきちんとできるのかという、実務上の問題が出て来ます。

 結局これは、全体財産を合算して相続税の総額を算出する必要があるという、現行の相続税の課税方式を採用することの限界を意味しているのではないでしょうか。かつて民主党政権下の税調で審議されその後にお蔵入りになってしまった遺産取得課税方式(財産の取得者ごとに申告できるような制度)への切り替えがないかぎり、解決しない問題がこの事業承継税制には存在します。かといって、親族外承継者が居る事業承継税制の適用である場合にかぎって課税方式を変更するという対案があったとしても、それはかなりハードルが高い内容であると思われます。

 このような法人版事業承継税制の特例措置について、先の税制改正大綱では、令和9年12月末までの適用期限については今後も延長を行わないと明言をしています。そろそろ事業承継税制の特例措置に代わる、あらたな株式評価制度の議論が求められる時期に来ているように思うところです。

2024年5月28日記述

5)専業主婦名義の預金は夫の遺産を構成するか

●はじめに

 名義預金の問題といわれるなかで、実務で特に問題になるのが専業主婦名義の預金に関する取扱いです。場合によっては、仮に被相続人である夫の遺産に含まれるとすれば相続税申告義務があり、逆に預金名義どおりの被相続人の配偶者の財産であるとすれば相続税申告は要しない場合もあり、申告の要否という入り口の検討に関係してくるきわめて重要なテーマです。
 このような専業主婦名義の預金の取扱いの検討に際しては、被相続人やその配偶者が生きてこられた時代考証が欠かせないと考えます。この点、近年の相続税申告の受任を振り返ってみると、被相続人が80歳台から90歳台の場合が多く、いわゆる団塊の世代の少し前の年齢層であるとの印象です。これらの世代の方々が生きてきた戦後日本の歩みを考察することにより、表題にある「専業主婦名義の預金の遺産帰属」の問題の検証が進みそうです。

●検討にあたっての考慮要素

 専業主婦名義の預金が多額にのぼる場合、それが被相続人である夫の遺産であるのかどうか、相続税申告やその税務調査で問題になることがあります(妻が被相続人である場合にも同様の問題が生じ得ます)。このような専業主婦名義の預金の相続税申告での取扱いに際しては、以下の考慮要素に照らし合わせて検討してゆくことになると思われます。

①妻に預金残高に見合うだけの資力があったのか

 妻の過去の勤務や就労の内容、年金収入、夫からの専従者給与の有無、妻の実家や親族からの相続、夫や両親等からの贈与の有無について、妻や子らから聞き出します。
②夫からの資金移動に関する通帳照合や当事者からの聞き取り
 夫からの資金移動による預金残高の形成であることが確認できれば夫の財産として取り扱います。また妻の証言により妻に資力の源泉がないことが確認できれば、夫の財産との間接証明が得られたことになります。
③預金の管理状況
 妻名義の預金について夫が通帳を管理していれば夫の財産として取り扱います。仮に妻が通帳を管理していたとしても、ただちにそのことをもって妻の財産といえる訳ではありません(同趣旨の判決があります)。

●各々の考察

 上記①については、以下のような時代考証も踏まえつつ、妻に預金残高形成の資力や源泉があったとされないことが多い印象です。
・もともと兄弟姉妹が多く、また令和の現代に比べれば、両親の相続発生時にはその長男による家督相続の習慣が色濃い時代であり、妻が自身の実家の相続により資産を形成したケースは僅少であること。
・高度経済成長と夫の終身雇用により妻の専業主婦化が進んだこと。
・バブル経済の崩壊とその後の低成長時代を経て非正規雇用の割合が増え、妻が専業主婦をやめて就労をしたとしても、低賃金の非正規雇用であることが多かったこと。
・贈与税の申告はもとより、夫婦間で預金贈与に関する明示もしくは黙示の契約があることは希であること。

 上記②については、夫の預金からの出金と妻名義の預金への入金との対応関係を証明してゆくことになります。また預金残高の源泉が夫にあることの妻の証言が得られれば、その証言は間接的な証明になる者と思われます。

 上記③については、預金の管理を誰がしていたかが論点にはなりますが、たとえ夫名義の預金であっても妻が家計費を預かるとの趣旨で妻が管理をしていることが多い実情からすると、妻名義の預金を妻が管理していたとの一事で、妻名義の預金が妻の財産であり夫の財産ではないとの主張は通りにくいところです。

2024/1/29 税理士小林俊道事務所

2)貸倒損失の損金算入否認と貸倒引当金への“乗り換え”

 不良債権を長年放置してその損失計上の先送りとなる事案が散見されるといわれています。この点、たとえば相手方(債務者)について破産手続の終結決定や廃止決定がされると、法律上の貸倒れではなく、法人格の消滅による事実上の貸倒として貸倒損失の損金経理/損金算入をします。もっとも、こうした破産廃止決定については個々の債権者に通知がされないことが多いため、こうした破産手続きが終わっていることに気がつかないまま経過してしまい、貸倒損失の計上時期を逸してしまうという、「意図しない」損失計上の先送りとなる事態も想定されます。決算で帳簿を締めるまでに、破産管財人である相手方弁護士事務所に電話で確認をすることが必要になるでしょう。
 また、債務者によってはこうした破産手続き自体をせずに、債権者との連絡を絶つ状況も見受けられます。このような回収が困難になった金銭債権は、状況を見極めつつ、場合によっては早めに貸倒処理をしてしまうとの検討が必要になるでしょう。
 この場合、法人がした貸倒損失の事実認定に関しては税務調査で争点になることもあります。こうした場合に備えて想定しておきたいのは、貸倒損失が税務否認された場合の貸倒引当金への“乗り換え”です。かかる乗り換えについては、法人税基本通達11-2-2の定めがあり、そこでは、貸倒損失を計上したことに起因する損失であれば、明細書を追加提出することで個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入れ(法人税法52条1項、法人税法施行規則96条1項各号)として取り扱われることとされています。こうした通達の内容からすると、納税者の側からすれば、税務調査において貸倒損失計上が否認された場合の対応策としての活用が想定できるところです(※)。

(※)ただし、現行では貸倒引当金を損金算入できるのは、期末資本金が1億円以下の中小法人にかぎられていて、資本金5億円以上の大法人による完全支配関係がある普通法人等も、かかる中小法人から除外されています。また、令和2年度税制改正において、完全支配関係がある法人に対する金銭債権についても、その損金算入が認められなくなりました。

2024/01/22 税理士小林俊道事務所

1)自動車や機械装置等動産の盗難と損失計上

 車両や機械装置等の動産について盗難被害の相談が寄せられるようになりました。特に自動車では、ハイエースやプリウスなど法人所有の社用車に多い車種についても窃盗団のターゲットにされているようで、駐車場所の再選定をはじめとした管理方法の見直しや、盗難に備えた付保をしておくといった自衛策も求められそうです。

 法人が不幸にも自動車の盗難に遭った場合の法人の経理/税務処理としては、資産損失の計上時期が問題になりそうです。この点、公正な会計慣行(法人税法22条3項3号)にしたがうならば、事業活動における収益との因果関係が認められなくなった盗難の時点において、盗難損失(資産の滅失損)を計上するのが相当するところでしょう。基本的には、警察に盗難届を提出して受理され、車両の抹消登録(廃車手続き)を実施した時点をもって資産の滅失損を計上すべき時期とするのが相当です。

 車両保険に盗難補償が附帯していた場合には、保険会社の1ヶ月程度の調査期間を経て保険金が支払われて損失が補填されることになります。そうなると、企業会計の適正な期間損益計算(法人税法22条4項)による公正な会計慣行により、企業会計の費用収益対応の原則に準じた経理/税務処理が相当になります。

 そのうえで、当該保険金が確定するまでは、盗難資産に係る資産の帳簿残高をいったん保険未決算残高に振り替えておき(建設仮勘定の真逆のような科目と残高)、保険金が確定した時点において、保険未決算残高を盗難損失に振替えつつ保険金を雑収入に計上する(両建て)方法か、或いは帳簿価額と保険金の差額を保険差損益に計上するのが相当です。この場合の保険金は損失を補填するものとして支給されるものであるため、消費税の課税対象外取引になります。

 なお、裁決事例集も参考にして頂けると思います(平成15年2月6日裁決・裁決事例集No.65-366頁)。

2024/01/22 税理士小林俊道事務所

4)マンション評価通達が発遣

 相続税・贈与税におけるマンションの評価については、相続税評価額と売買実例価額とが大きく乖離するケースが頻出し、こうした乖離を利用した“節税対策”が広く利用される実態が課税実務のまわりで問題化していました(令和4年最高裁判決をはじめとした総則6項適用問題)。こうした問題を是正するためのあらたな個別通達「居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達)が定められました。
 具体的には「居住用の区分所有財産」(いわゆる分譲マンションでタワマンに限定されるものではない)の相続税評価を、予測した市場価額の6割水準まで補正するもので、令和6年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産に適用されます。

(1)あらたな評価方法の概要

 あらたなマンション評価の方法は、①評価乖離率を求めた上で、②評価乖離率にもとづく評価水準の区分により、【1】一室の区分所有権等に係る敷地利用権と【2】区分所有権の各価額を補正してゆくというものです。

 そのうち、①評価乖離率の求め方は、A築年数、B総階数指数、C所在階、D敷地持分狭小度、の各指数を元に算出します。

A築年数・・・マンション建築時から課税時期までの期間をさす。

B総階数指数・・・総階数÷33で求める。階数に地下は含まない。

C所在階・・・メゾネットタイプのような2階にまたがるマンションの場合は低い階数を所在階とする。地下の場合は0階とする。

D敷地持分狭小度・・・評価対象一室の「敷地利用権の面積÷専有面積」で求めた値。

 また、②の評価水準は「1÷評価乖離率」、すなわち評価乖離率にもとづく評価水準の区分を設け(以下)、かかる評価水準の区分に応じて従前の評価額を適宜補正してゆくというものです。

・評価水準が1を超える場合
→区分所有補正率を評価乖離率とする

・評価水準が0.6~1の場合
→区分所有補正率を1とする(=補正せずに従来の評価額で評価)

・評価水準が0.6未満の場合
→区分所有補正率を「評価乖離率×0.6」とする

【1】一室の区分所有権等に係る敷地利用権(土地)の価額
あらたな自用地としての評価額=「従来の自用地としての評価額」×区分所有補正率

【2】一室の区分所有権に係る区分所有権(家屋)の価額
あらたな自用家屋としての評価額=「従来の自用家屋としての評価額」×区分所有補正率

(2)改正の影響

 これまでのマンション評価との比較としては、“築浅であるほど”“所在階が高いほど”“敷地に目いっぱいに立っている総戸数の多い”マンションほど、それぞれ評価額が高くなる傾向があります。
 他方で、貸家建付地や貸家など、現行の評価通達で配慮すべき一定の要素がある場合には、それらの評価通達を補正後のマンション評価額にも適用できます。また、要件を満たす場合には小規模宅地等の特例の適用を受けることも可能です。ちなみに、国税庁の解説によれば、一棟買いのマンションや商業ビル、二世帯住宅の区分所有物件はあらたな評価方法の対象外になるとのことです。
 また、今回の個別通達が目指したところは、予測した市場価額の6割水準まで補正をするものとしていることからすると、なお都心部のマンションは有効な相続税の節税対策となり得ることが予想できます。

(3)なお残る問題点や懸念事項

 タワマン節税の舞台とされるタワーマンションはその立地のほか、「眺望」「一室の向き」「採光」の良し悪しで一室の取引価額が決まってゆくとされていますが、あらたな評価方法ではこうした要素が織り込まれていません。たとえば霊峰富士山が眺望できる魅力で取引価額が高止まりしている場合には、あらたな評価方法は無力であるように思えるのですが、果たしてどうなるのでしょうか。
 そもそも今般のマンション評価通達は、前年度の令和5年度税制改正大綱で「現状を放置すればマンションの相続税評価額が個別に判断されることもあり、納税者の予見可能性を確保する必要もある」との指摘を受けて発遣されたものです。それにもかかわらず、国税庁はあらたな評価方法の公表にあたり「本通達及び評価通達の定める評価方法によって評価することが著しく不適当と認められる場合には、評価通達6が適用される」としており、取引価額と補正後の評価額になお乖離が生じており課税上弊害がある場合は、総則6項適用問題が再燃することが懸念されます。そうだとすると、こうしたマンション評価通達の発遣をもって納税者の予見可能性が確保されたとは言いがたい状況がなお続いているように思えます。
 また、今回のマンション評価は、重回帰分析といった統計的手法を用いて推定時価を求めるとの評価方法とされるところ、サンプルとされた取引価額は平成30年分のマンション一室の取引事例とされていて、そうしたサンプル自体が6年の月日を経てすでに陳腐化しているとの印象も抱きます。こうした背景も「納税者の予見可能性の確保」に影を落とす部分です。
 この点については国税庁も理解をしているようで、評価乖離率を求める算式や値については適時に見直しを行うとも表明しています。そのイメージとしては、3年に一度の固定資産税評価額の評価替えに相当するような通達改正が予想されるところであり、今後の定期的な見直しを前提としているがゆえの「個別通達」での発遣と捉えることができるでしょう。2024/01/17 税理士小林俊道事務所

3)今後の相続・贈与実務のトレンドを占う

○相続時精算課税の利用は増えるだろう

 これまで使い勝手が良くない等の理由で利用が伸びなかった相続時精算課税制度について、その利用が広がることが予想されます。
 同税制については、あらたに毎年110万円の基礎控除が創設されたうえ、基礎控除を下回る贈与の場合は贈与税申告は不要(※)、かつ当該基礎控除額を下回る毎年の贈与について、将来の相続財産への加算は不要との改正内容は画期的です。こうした改正は、たとえば相続が間際な高齢な方とその家族にとっては、特に魅力に感じるところでしょう。

(※)申告を要しない場合であっても、適用を受けようとする初年度の場合は、受贈者において相続時精算課税選択届出書を期限内に所轄税務署に提出する必要があります。なお、このような基礎控除が創設されたことにより、税務署の資産課税部門や関与税理士の相続税申告書まわりの業務は、各々その工数が増すことは確実でしょう。

○暦年課税の利用も根強く残るだろう

 一方、これまでの生前贈与で広く利用されてきた暦年課税の制度も、根強い人気としてなお利用されるでしょう。相続発生前7年間の加算対象期間を気にしなくても良い“若い推定被相続人”から推定相続人への贈与であったり、贈与税の暦年課税の仕組みを利用した“孫への贈与”は、孫に遺贈する旨の遺言がない場合や、孫を受取人とする死亡保険金等のみなし相続財産がないかぎり、原則として相続税申告における相続前贈与の遺産加算の対象とはならず、今回の改正の影響は受けないからです。孫への贈与については、相続税・贈与税の一体課税の流れはなお及んでいないということです。
 また、相続時精算課税制度を一度選択したらその撤回ができないとの仕組みはなお存続しており、そのような制度の中で、相続時精算課税制度における110万円の基礎控除が、こののちの税制改正で消失してしまう可能性もゼロではありません。そのようなことからすると、相続発生がはるかに先の若い資産家においては、長い期間、かつ裾野を広く生前贈与を行い、なおかつ暦年課税の制度を利用してゆくことが一般的になるでしょう。

2024/01/12 税理士小林俊道事務所

2)相続時精算課税贈与の基礎控除の新設

<改正の概要>

・暦年課税贈与と相続時精算課税贈与の選択制は引き続き維持

・毎年110万円までの基礎控除が、暦年課税の基礎控除110万円とは別に新設される。

・毎年110万円までの贈与であれば、相続時精算課税制度を選択していても贈与税の申告と納税は不要となる。

・毎年110万円までの贈与は、特別控除2500万円の対象外となる。

・毎年110万円までの贈与は、相続開始前7年間の贈与も含めて相続税の計算に加算不要。

2024/1/5 税理士小林俊道事務所

1)相続税計算に加算する暦年課税贈与の加算期間の延長

<改正の概要>

・暦年課税贈与と相続時精算課税贈与の選択制は引き続き維持

・加算対象者(相続又は遺贈により財産を取得した者・みなし相続による取得を含む)は変更なし

・相続開始前7年間(改正前3年間)の贈与を相続税の計算に加算。

・税制改正により延長した4年間に受けた贈与については、総額100万円までの金額は相続財産に加算しない。

<適用時期>

・令和6年1月1日以降に行われる贈与から、加算期間の延長の対象になる。

・改正の影響は、令和9年1月2日以降開始相続から加算期間は順次延長され、令和13年1月1日以降開始相続から加算期間が7年間となる(※)。

 (※)上記の意味するところ;令和9年1月2日相続開始の場合、改正前制度では令和6年1月2日以降に行われた贈与が加算対象とされたところ、改正後制度では令和6年1月1日以降に行われた贈与が加算対象となる。

2024/1/5 税理士小林俊道事務所