一人あたり1万円以下の飲食費(社内飲食費をのぞきます)については、一定の事項を記載した書類の保存を条件に交際費等の支出額とはされず、法人の規模を問わず損金算入することができます。
この一人あたり1万円以下との判定にあたって、飲食代金に含めて支払った消費税等の額を含めて判定をするのかについては、事業者が税込経理方式を採用している場合には消費税等の額を含めて判定し、税抜経理方式を採用している場合には消費税等の額を含めずに判定するのが原則です。
この点、税抜経理方式を採用する事業者が、免税事業者などのインボイス発行事業者以外の者に飲食費を支払った場合には、原則として仮払消費税等の額がないものとされるため、仕入税額相当額の全額を飲食費に含めた上で、一人あたり1万円以下か否かの判定を行います(消費税経理通達12)。
ただし、令和5年10月1日から3年間は仕入税額相当額の80%を控除できるとする経過措置が設けられているため、経過措置を適用する場合は「税抜価額+仕入税額相当額×20%」の計算式で求めた金額をもって、一人あたり1万円以下か否かで判定することになります。
結果、令和5年10月1日から3年間において免税事業者等の飲食店で飲食費を支出した場合の1万円基準のボーダーは、一人あたり「税抜9,803円(税込10,784円)」となります。
もっとも、税抜経理方式を採用する事業者が「簡易課税制度適用事業者である場合」もしくは「2割特例制度を適用して申告納税する事業者である場合」については、令和6年度税制改正とそれを受けて発遣された「「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて(略称、消費税経理通達)」等の一部改正について(法令解釈通達)」(国税庁令和5年12月27日公表)において、それらの適用事業年度における継続適用を条件として、インボイスの保存の有無にかかわらずすべての課税仕入れについて、課税仕入れに係る支払い対価の額に110分の10(軽減税率の対象となるものは108分の8)を乗じて算出した金額を仮払消費税等の額とする経理処理が認められることとされました(消費税経理通達1の2(新設)、簡易課税制度が適用される課税期間を含む事業年度の仮払消費税等の額の特例)。
かかる改正の趣旨は、これら簡易課税制度適用事業者や2割特例適用事業者は、みなし仕入率に応じて仕入税額控除額を算出するのだから、そもそもインボイスの保存は不要とされる事業者です。そこで、税抜経理方式を採用している簡易課税制度適用事業者らが、経理処理のためだけに、仕入れ先がインボイス発行事業者であるか否かを区分するとの事務負担を強いることは、もはやその意味を見いだしにくいとされたことによるものでしょう。
こうした通達の改正内容を実務に反映することとした簡易課税制度適用事業者や2割特例適用事業者においては、たとえ税抜経理方式を採用していたとしても、インボイスの交付を受けられなかった飲食費について特段の区別をすることなく、課税仕入れに係る支払い対価の額に110分の10を乗じて算出した金額を仮払消費税等としたうえで、支払対価から当該仮払消費税等の金額を除いた金額を飲食費の支出額としたところで、一人あたり1万円以下の飲食費との判定を行うことが可能となりました。
実際の私の関与先実務を通じて、税抜経理方式を採用する簡易課税制度適用事業者は少数に思うところですが(簡易課税制度適用事業者は税込経理を採用するとの印象が強い)、該当するこうした事業者において、インボイスの保存の有無にとらわれずに経理処理を画一化でき、また一人あたり1万円以下の飲食費の判定が一律の基準で可能になることは実務メリットが大きいところで、ここで述べたような令和6年度税制改正における消費税経理通達の改正については、実務への導入も含めて今後の研究の意義が大きいと思われます。
参考;(通達の概要、第1 個別通達《消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて》関係)https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000265850
令和6年8月1日記述