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2)貸倒損失の損金算入否認と貸倒引当金への“乗り換え”

 不良債権を長年放置してその損失計上の先送りとなる事案が散見されるといわれています。この点、たとえば相手方(債務者)について破産手続の終結決定や廃止決定がされると、法律上の貸倒れではなく、法人格の消滅による事実上の貸倒として貸倒損失の損金経理/損金算入をします。もっとも、こうした破産廃止決定については個々の債権者に通知がされないことが多いため、こうした破産手続きが終わっていることに気がつかないまま経過してしまい、貸倒損失の計上時期を逸してしまうという、「意図しない」損失計上の先送りとなる事態も想定されます。決算で帳簿を締めるまでに、破産管財人である相手方弁護士事務所に電話で確認をすることが必要になるでしょう。
 また、債務者によってはこうした破産手続き自体をせずに、債権者との連絡を絶つ状況も見受けられます。このような回収が困難になった金銭債権は、状況を見極めつつ、場合によっては早めに貸倒処理をしてしまうとの検討が必要になるでしょう。
 この場合、法人がした貸倒損失の事実認定に関しては税務調査で争点になることもあります。こうした場合に備えて想定しておきたいのは、貸倒損失が税務否認された場合の貸倒引当金への“乗り換え”です。かかる乗り換えについては、法人税基本通達11-2-2の定めがあり、そこでは、貸倒損失を計上したことに起因する損失であれば、明細書を追加提出することで個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入れ(法人税法52条1項、法人税法施行規則96条1項各号)として取り扱われることとされています。こうした通達の内容からすると、納税者の側からすれば、税務調査において貸倒損失計上が否認された場合の対応策としての活用が想定できるところです(※)。

(※)ただし、現行では貸倒引当金を損金算入できるのは、期末資本金が1億円以下の中小法人にかぎられていて、資本金5億円以上の大法人による完全支配関係がある普通法人等も、かかる中小法人から除外されています。また、令和2年度税制改正において、完全支配関係がある法人に対する金銭債権についても、その損金算入が認められなくなりました。

2024/01/22 税理士小林俊道事務所

1)自動車や機械装置等動産の盗難と損失計上

 車両や機械装置等の動産について盗難被害の相談が寄せられるようになりました。特に自動車では、ハイエースやプリウスなど法人所有の社用車に多い車種についても窃盗団のターゲットにされているようで、駐車場所の再選定をはじめとした管理方法の見直しや、盗難に備えた付保をしておくといった自衛策も求められそうです。

 法人が不幸にも自動車の盗難に遭った場合の法人の経理/税務処理としては、資産損失の計上時期が問題になりそうです。この点、公正な会計慣行(法人税法22条3項3号)にしたがうならば、事業活動における収益との因果関係が認められなくなった盗難の時点において、盗難損失(資産の滅失損)を計上するのが相当するところでしょう。基本的には、警察に盗難届を提出して受理され、車両の抹消登録(廃車手続き)を実施した時点をもって資産の滅失損を計上すべき時期とするのが相当です。

 車両保険に盗難補償が附帯していた場合には、保険会社の1ヶ月程度の調査期間を経て保険金が支払われて損失が補填されることになります。そうなると、企業会計の適正な期間損益計算(法人税法22条4項)による公正な会計慣行により、企業会計の費用収益対応の原則に準じた経理/税務処理が相当になります。

 そのうえで、当該保険金が確定するまでは、盗難資産に係る資産の帳簿残高をいったん保険未決算残高に振り替えておき(建設仮勘定の真逆のような科目と残高)、保険金が確定した時点において、保険未決算残高を盗難損失に振替えつつ保険金を雑収入に計上する(両建て)方法か、或いは帳簿価額と保険金の差額を保険差損益に計上するのが相当です。この場合の保険金は損失を補填するものとして支給されるものであるため、消費税の課税対象外取引になります。

 なお、裁決事例集も参考にして頂けると思います(平成15年2月6日裁決・裁決事例集No.65-366頁)。

2024/01/22 税理士小林俊道事務所

4)マンション評価通達が発遣

 相続税・贈与税におけるマンションの評価については、相続税評価額と売買実例価額とが大きく乖離するケースが頻出し、こうした乖離を利用した“節税対策”が広く利用される実態が課税実務のまわりで問題化していました(令和4年最高裁判決をはじめとした総則6項適用問題)。こうした問題を是正するためのあらたな個別通達「居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達)が定められました。
 具体的には「居住用の区分所有財産」(いわゆる分譲マンションでタワマンに限定されるものではない)の相続税評価を、予測した市場価額の6割水準まで補正するもので、令和6年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産に適用されます。

(1)あらたな評価方法の概要

 あらたなマンション評価の方法は、①評価乖離率を求めた上で、②評価乖離率にもとづく評価水準の区分により、【1】一室の区分所有権等に係る敷地利用権と【2】区分所有権の各価額を補正してゆくというものです。

 そのうち、①評価乖離率の求め方は、A築年数、B総階数指数、C所在階、D敷地持分狭小度、の各指数を元に算出します。

A築年数・・・マンション建築時から課税時期までの期間をさす。

B総階数指数・・・総階数÷33で求める。階数に地下は含まない。

C所在階・・・メゾネットタイプのような2階にまたがるマンションの場合は低い階数を所在階とする。地下の場合は0階とする。

D敷地持分狭小度・・・評価対象一室の「敷地利用権の面積÷専有面積」で求めた値。

 また、②の評価水準は「1÷評価乖離率」、すなわち評価乖離率にもとづく評価水準の区分を設け(以下)、かかる評価水準の区分に応じて従前の評価額を適宜補正してゆくというものです。

・評価水準が1を超える場合
→区分所有補正率を評価乖離率とする

・評価水準が0.6~1の場合
→区分所有補正率を1とする(=補正せずに従来の評価額で評価)

・評価水準が0.6未満の場合
→区分所有補正率を「評価乖離率×0.6」とする

【1】一室の区分所有権等に係る敷地利用権(土地)の価額
あらたな自用地としての評価額=「従来の自用地としての評価額」×区分所有補正率

【2】一室の区分所有権に係る区分所有権(家屋)の価額
あらたな自用家屋としての評価額=「従来の自用家屋としての評価額」×区分所有補正率

(2)改正の影響

 これまでのマンション評価との比較としては、“築浅であるほど”“所在階が高いほど”“敷地に目いっぱいに立っている総戸数の多い”マンションほど、それぞれ評価額が高くなる傾向があります。
 他方で、貸家建付地や貸家など、現行の評価通達で配慮すべき一定の要素がある場合には、それらの評価通達を補正後のマンション評価額にも適用できます。また、要件を満たす場合には小規模宅地等の特例の適用を受けることも可能です。ちなみに、国税庁の解説によれば、一棟買いのマンションや商業ビル、二世帯住宅の区分所有物件はあらたな評価方法の対象外になるとのことです。
 また、今回の個別通達が目指したところは、予測した市場価額の6割水準まで補正をするものとしていることからすると、なお都心部のマンションは有効な相続税の節税対策となり得ることが予想できます。

(3)なお残る問題点や懸念事項

 タワマン節税の舞台とされるタワーマンションはその立地のほか、「眺望」「一室の向き」「採光」の良し悪しで一室の取引価額が決まってゆくとされていますが、あらたな評価方法ではこうした要素が織り込まれていません。たとえば霊峰富士山が眺望できる魅力で取引価額が高止まりしている場合には、あらたな評価方法は無力であるように思えるのですが、果たしてどうなるのでしょうか。
 そもそも今般のマンション評価通達は、前年度の令和5年度税制改正大綱で「現状を放置すればマンションの相続税評価額が個別に判断されることもあり、納税者の予見可能性を確保する必要もある」との指摘を受けて発遣されたものです。それにもかかわらず、国税庁はあらたな評価方法の公表にあたり「本通達及び評価通達の定める評価方法によって評価することが著しく不適当と認められる場合には、評価通達6が適用される」としており、取引価額と補正後の評価額になお乖離が生じており課税上弊害がある場合は、総則6項適用問題が再燃することが懸念されます。そうだとすると、こうしたマンション評価通達の発遣をもって納税者の予見可能性が確保されたとは言いがたい状況がなお続いているように思えます。
 また、今回のマンション評価は、重回帰分析といった統計的手法を用いて推定時価を求めるとの評価方法とされるところ、サンプルとされた取引価額は平成30年分のマンション一室の取引事例とされていて、そうしたサンプル自体が6年の月日を経てすでに陳腐化しているとの印象も抱きます。こうした背景も「納税者の予見可能性の確保」に影を落とす部分です。
 この点については国税庁も理解をしているようで、評価乖離率を求める算式や値については適時に見直しを行うとも表明しています。そのイメージとしては、3年に一度の固定資産税評価額の評価替えに相当するような通達改正が予想されるところであり、今後の定期的な見直しを前提としているがゆえの「個別通達」での発遣と捉えることができるでしょう。2024/01/17 税理士小林俊道事務所

3)今後の相続・贈与実務のトレンドを占う

○相続時精算課税の利用は増えるだろう

 これまで使い勝手が良くない等の理由で利用が伸びなかった相続時精算課税制度について、その利用が広がることが予想されます。
 同税制については、あらたに毎年110万円の基礎控除が創設されたうえ、基礎控除を下回る贈与の場合は贈与税申告は不要(※)、かつ当該基礎控除額を下回る毎年の贈与について、将来の相続財産への加算は不要との改正内容は画期的です。こうした改正は、たとえば相続が間際な高齢な方とその家族にとっては、特に魅力に感じるところでしょう。

(※)申告を要しない場合であっても、適用を受けようとする初年度の場合は、受贈者において相続時精算課税選択届出書を期限内に所轄税務署に提出する必要があります。なお、このような基礎控除が創設されたことにより、税務署の資産課税部門や関与税理士の相続税申告書まわりの業務は、各々その工数が増すことは確実でしょう。

○暦年課税の利用も根強く残るだろう

 一方、これまでの生前贈与で広く利用されてきた暦年課税の制度も、根強い人気としてなお利用されるでしょう。相続発生前7年間の加算対象期間を気にしなくても良い“若い推定被相続人”から推定相続人への贈与であったり、贈与税の暦年課税の仕組みを利用した“孫への贈与”は、孫に遺贈する旨の遺言がない場合や、孫を受取人とする死亡保険金等のみなし相続財産がないかぎり、原則として相続税申告における相続前贈与の遺産加算の対象とはならず、今回の改正の影響は受けないからです。孫への贈与については、相続税・贈与税の一体課税の流れはなお及んでいないということです。
 また、相続時精算課税制度を一度選択したらその撤回ができないとの仕組みはなお存続しており、そのような制度の中で、相続時精算課税制度における110万円の基礎控除が、こののちの税制改正で消失してしまう可能性もゼロではありません。そのようなことからすると、相続発生がはるかに先の若い資産家においては、長い期間、かつ裾野を広く生前贈与を行い、なおかつ暦年課税の制度を利用してゆくことが一般的になるでしょう。

2024/01/12 税理士小林俊道事務所

2)相続時精算課税贈与の基礎控除の新設

<改正の概要>

・暦年課税贈与と相続時精算課税贈与の選択制は引き続き維持

・毎年110万円までの基礎控除が、暦年課税の基礎控除110万円とは別に新設される。

・毎年110万円までの贈与であれば、相続時精算課税制度を選択していても贈与税の申告と納税は不要となる。

・毎年110万円までの贈与は、特別控除2500万円の対象外となる。

・毎年110万円までの贈与は、相続開始前7年間の贈与も含めて相続税の計算に加算不要。

2024/1/5 税理士小林俊道事務所

1)相続税計算に加算する暦年課税贈与の加算期間の延長

<改正の概要>

・暦年課税贈与と相続時精算課税贈与の選択制は引き続き維持

・加算対象者(相続又は遺贈により財産を取得した者・みなし相続による取得を含む)は変更なし

・相続開始前7年間(改正前3年間)の贈与を相続税の計算に加算。

・税制改正により延長した4年間に受けた贈与については、総額100万円までの金額は相続財産に加算しない。

<適用時期>

・令和6年1月1日以降に行われる贈与から、加算期間の延長の対象になる。

・改正の影響は、令和9年1月2日以降開始相続から加算期間は順次延長され、令和13年1月1日以降開始相続から加算期間が7年間となる(※)。

 (※)上記の意味するところ;令和9年1月2日相続開始の場合、改正前制度では令和6年1月2日以降に行われた贈与が加算対象とされたところ、改正後制度では令和6年1月1日以降に行われた贈与が加算対象となる。

2024/1/5 税理士小林俊道事務所

(20)買手がインボイスの記載不足項目を自ら追記することはできるか

 インボイス制度がはじまり関与先から一番多かった質問を、今回は取り上げます。売手から交付を受けた請求書等にインボイスの記載事項がない場合や誤りがある場合、買い手側で不足項目や正しい金額等を自ら追記や修正することは可能でしょうか。
 インボイスの記載事項としては、これまでの区分記載請求書等の記載事項に加えて、あらたに「登録番号」「適用税率」「適用税率ごとの税込又は税抜の取引価額」「適用税率ごとの消費税額等」の記載が求められます。ちなみに簡易インボイスの場合は、「登録番号」「適用税率ごとの税込又は税抜の取引価額」のほか「適用税率又は適用税率ごとの消費税額」の記載で足りることとされています。
 このうち、インボイス施行直後の請求書等には、登録番号の記載はあっても適用税率や消費税額等の記載がみられないケースが散見されるところです。登録番号さえ記載しておけば何とかなるだろうとの売り手側のもくろみでしょうが、これでは買い手側において正当なインボイスの交付を受けたと言えず、このままでは仕入税額控除ができません。また、「適用税率ごとの消費税額等の端数処理は、ひとつのインボイスにつき一回のみ」とのあらたなルールにも対応していない請求書等も数多く見られるところです。
 そこで買い手側が考えそうな苦肉の策が“買い手において自ら適用税率等の追記や消費税額等の修正をしてインボイスを完成させれば良いのではないか”というものです。この点、インボイス制度では「修正インボイス」なる概念を用意しており、本来こうした場面においては売り手側に対して修正インボイスの交付を求めるのが筋合いです。すなわち、買い手における不足項目の追記や消費税額等の記載の修正は認められないとするのが原則的な考えです。
 もっとも、買い手が売手に対して適用税率等の追記や修正をすることを電話等で照会し、お互いでその追記や修正をしたものをインボイスとすることで確認をし合うことによる場合には、買い手において自ら追記や修正をした請求書等をもってインボイスの交付を受けたものとすることも可能との見解が国税庁より示されています。
 こうした条件付きで“追記や修正を可能”とする国税庁の説明は“支払通知書を相手方に交付してその内容の承認を受けることで、インボイスの交付を受けたものとすることも可能”とする、支払通知書のルールを援用するというものです。修正インボイスの対応はとても煩雑ですので、かかる買手が自ら追記や修正をするとの方法は取引実務において現実的な方法です。
 ただ、こうした追記や修正の対応とて“インボイス残業”の原因になることは明らかであり、最初から記載要件を満たしたインボイスの交付をすることが、取引先の信頼を得るためにも重要なことと思います。

2023/12/29 税理士小林俊道事務所

(19)インボイス記載税額と帳簿の消費税額とのズレへの対応

 「消費税額等」の金額については、本体価額に適用税率を乗じて求めるとの関係上、1円未満の端数が生じる可能性が有るところ、インボイスへの「消費税額等」の記載が要件とされたことにあわせて、端数処理に関するあらたなルール「ひとつのインボイスに付き端数処理は税率ごとにそれぞれ1回」が設けられるに至りました。
 一方、税抜経理を採用している場合の帳簿への仮受消費税等の計上については、消費税法上、そのタイミングや端数処理について何らのルールも設けられていません。そこで、インボイス記載の税額と帳簿の消費税計上額にズレが生じる場合が出て来ます。こうしたズレについて、事業者はどのような対応をすれば良いでしょうか。
 こうしたズレが生じた場合の対応として、売上税額や仕入税額について積上げ計算を採用している場合には、ズレが生じたとしても強いて調整する必要はないとの方針を国税庁では示しています。
 その一方で、売上税額や仕入税額について総額割戻し計算を採用している場合には、ズレを解消するための調整が必要になります。この点、当該ズレの調整方法が問題となるところ、インボイスにおける税込支払対価と帳簿における売掛金もしくは買掛金の発生金額とが一致するような端数調整を会計仕訳(帳簿)において実施をするのであれば、総額割戻し計算における正しい売上税額と仕入税額がそれぞれ求まるところです(※)。また、会計の開示ルールに必ずしもとらわれない中小企業では、そうした端数調整を行う会計仕訳における売掛金や買掛金の相手科目について、特段のこだわりは要しないと考えます。

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(※)たとえば売上税額を割戻し計算方式により求める場合、課税期間中の課税資産の譲渡等の対価の額に基づいて課税標準額を計算するべきところ、この課税標準額は、対価として収受し、または収受すべき金銭等で、消費税および地方消費税に相当する額を含まないものと規定されているため( 消法28条 1項)、実際に収受された請求書等に記載された税込価額に基づいて計算しなければならず、帳簿に記載された税込価額に基づいて計算してはいけません。すなわち、課税期間中の請求書等に記載された税込価額に110分の100(または108分の100)を乗じて課税標準額を計算し、その課税標準額に消費税率を乗じて消費税額を計算します。

2023/12/28税理士小林俊道事務所

1)ECサイトで物品を購入、領収書データは保存対象?

 Amazon等のEC(電子商取引)サイトで物品を購入したとき、ECサイト上の購入情報を管理するページ内で領収書等データ(電子取引データとして電帳法にもとづく保存対象となる)をダウンロードできる場合、領収書等データを必ずダウンロードして保存する必要があるのでしょうか、この点について国税庁では、当該ECサイト上でその領収書等データの確認が随時可能な状態である場合には、必ずしもその領収書等データをダウンロードして保存していなくても差し支えないとしています。

 ただ、各税法で定められた保存期間が満了する前にECサイト上でその領収書等データの確認ができなくなる場合は、その確認ができなくなる前に領収書等データをダウンロードして保存する必要があることなどに注意を要します。

2024/01/05 税理士小林俊道事務所

(18)総額割戻し計算、積上げ計算、いずれを採用するのがよいか

 これまでの消費税法とその実務においては、一部の特例的な取扱いを除いて、その税額計算は、売上税額と仕入税額いずれにおいても「総額割戻し計算」によることとされてきました。
 こうした消費税の税額計算方法について、インボイス施行後においては、あらたに「積上げ計算」なる概念が制度に入ってきました。かかる積上げ計算には「請求書積上げ方式」と「帳簿積上げ方式」とのふたとおりの方法があるとされています(売上税額の計算に関しては請求書積上げ方式のみが認められています)。
 この点、インボイス導入後の実務を見ていますと、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等の一部の大規模小売業では、自社に有利となる売上税額の計算方法である「積上げ方式」を採用する動きがみられるようです。そのうえで、売上税額計算にあたって積上げ方式を採用した場合、ルールとして、仕入税額計算は積上げ方式の一択のみとされています。
 では、実際に自社における納税額計算の方法について、いずれの方式を選ぶのが適当でしょうか。この点、納税額に顕著な違いが顕れる一部の大規模小売業を営む事業者を除いて、ほとんどの事業者では、売上税額/仕入税額いずれについても「総額割戻し計算」採用することで良いのではないかと考えます。
 というのは、総額割戻し計算は、①これまでの実務において脈々と実施してきた納税額計算の方法であり、事業者にとってなじみ深いものであること、②積上げ方式による税額計算の採用が大幅に有利になることは、少額の売上を際限なく繰り返し決済する一部の大規模小売業にかぎられる、③仮に売上税額について積上げ計算を採用する場合、多くの場合でレジシステムと会計システムが連動するようなシステム改修が必要になると思われること、等の理由からです。
 この点で、国税庁も含めた巷のインボイス制度の説明では、「売上税額の計算方法は原則として総額割戻し計算である」とし、また「仕入税額の計算方法は原則としてとして積上げ計算である」との記述が一般的です。このような記述を目にした方から、売上税額の計算はこれまでどおり総額割戻し計算を適用することとして、仕入税額の計算方法として引き続き総額割戻し計算を適用したら何かまずいことになるのか、との質問が寄せられることがありました。こうした質問について、売上税額/仕入税額いずれについても、これまでどおりの総額割戻し計算を適用することは、制度の面からみても、実務上の観点からしても(たいていの場合において)差し支えないというのが、私なりの回答になるところです。

2023/12/28税理士小林俊道事務所