3)今後の相続・贈与実務のトレンドを占う
○相続時精算課税の利用は増えるだろう
これまで使い勝手が良くない等の理由で利用が伸びなかった相続時精算課税制度について、その利用が広がることが予想されます。
同税制については、あらたに毎年110万円の基礎控除が創設されたうえ、基礎控除を下回る贈与の場合は贈与税申告は不要(※)、かつ当該基礎控除額を下回る毎年の贈与について、将来の相続財産への加算は不要との改正内容は画期的です。こうした改正は、たとえば相続が間際な高齢な方とその家族にとっては、特に魅力に感じるところでしょう。
(※)申告を要しない場合であっても、適用を受けようとする初年度の場合は、受贈者において相続時精算課税選択届出書を期限内に所轄税務署に提出する必要があります。なお、このような基礎控除が創設されたことにより、税務署の資産課税部門や関与税理士の相続税申告書まわりの業務は、各々その工数が増すことは確実でしょう。
○暦年課税の利用も根強く残るだろう
一方、これまでの生前贈与で広く利用されてきた暦年課税の制度も、根強い人気としてなお利用されるでしょう。相続発生前7年間の加算対象期間を気にしなくても良い“若い推定被相続人”から推定相続人への贈与であったり、贈与税の暦年課税の仕組みを利用した“孫への贈与”は、孫に遺贈する旨の遺言がない場合や、孫を受取人とする死亡保険金等のみなし相続財産がないかぎり、原則として相続税申告における相続前贈与の遺産加算の対象とはならず、今回の改正の影響は受けないからです。孫への贈与については、相続税・贈与税の一体課税の流れはなお及んでいないということです。
また、相続時精算課税制度を一度選択したらその撤回ができないとの仕組みはなお存続しており、そのような制度の中で、相続時精算課税制度における110万円の基礎控除が、こののちの税制改正で消失してしまう可能性もゼロではありません。そのようなことからすると、相続発生がはるかに先の若い資産家においては、長い期間、かつ裾野を広く生前贈与を行い、なおかつ暦年課税の制度を利用してゆくことが一般的になるでしょう。
2024/01/12 税理士小林俊道事務所